フィンランドの光を香川に運ぶ。築40年の実家を再生した「引き算のリノベーション」全記録

初夏の香川は、瀬戸内からの穏やかな風がオリーブの葉を揺らし、どこか地中海のような乾いた光に満ちています。東京の品川にあるオフィスから飛行機で1時間半、高松空港に降り立つたびに、私はこの土地固有の「光の密度」を感じます。特に、夏の気配が忍び寄るこの季節は、光と影のコントラストが最も美しく、建築家としての思索を強く刺激してやみません。

実は、私の実家は香川県に建つ築40年の木造平屋住宅です。高度経済成長期の末期に建てられたその家は、細かく仕切られた部屋、低い天井、そして南側にしか届かない光という、当時の日本の典型的な住宅課題をすべて抱えていました。この記事では、この築40年の実家をリノベーションした軌跡を、私がフィンランドの森の中で見つけた「光の引き算」という視点とともに、時系列のタイムラインでご紹介します。


1. 【計画】始まりの予感:築40年の実家が抱えていた「問い」

2023年の秋、リノベーションの計画は、実家の老朽化と家族のライフスタイルの変化から静かに始まりました。1980年代に建てられたこの平屋は、約28坪(約92平米)。当時としては標準的な「部屋数重視」の3LDK設計でした。しかし、子どもたちが独立し、夫婦二人だけとなった今、10畳の和室や細切れになった個室は、光も風も通らない「開かずの間」と化していました。

日本の1980年代前後の木造住宅の多くは、耐震補強の不足や、断熱材がほとんど入っていないことによる著しい断熱性能の低さという、性能面の致命的な課題を抱えています。この実家も例に漏れず、冬は底冷えし、夏はエアコンが効かないという極めて過酷な熱環境でした。

「すべてを解体して建て直すべきか、それともこの場所にある土地の記憶を継承すべきか」。建築家として、私は後者を選びました。なぜなら、40年間この土地に根を張り、家族の営みを見守ってきた柱や梁には、新築では決して得られない「時間の積層」という無二の価値があると考えたからです。予算的にも、建て替え(坪単価90万〜110万円想定)に比べ、スケルトンリノベーション(坪単価60万〜75万円想定)にすることで、構造の補強と断熱性能の劇的な向上にコストを集中できるというロジカルな判断もありました。

2. 【設計】フィンランドの森から香川へ:世界視察で見出した「光の引き算」

計画を進めていた2024年の初夏、私は北欧フィンランドへの建築視察へ旅立ちました。ヘルシンキから少し離れた湖水地方、そして巨匠アルヴァ・アアルトが設計した「コエ・タロ(実験住宅・夏の家)」を訪れたとき、私の設計思想に決定的な地殻変動が生まれました。

フィンランドの森の中に佇むその小さな小屋は、決して豪華な素材で作られているわけではありません。しかし、高い天井から差し込む柔らかい自然光が、白樺の床に落ち、部屋の奥へと伸びていく。そこには、「光を入れるために、あえて壁をなくし、影のグラデーションをつくる」という、極めて洗練された「引き算の美学」がありました。

この体験は、香川での設計にダイレクトに接続されました。日本の多くの住宅設計、特に地方のハウスメーカーの設計では、部屋を明るくするために南側に大きなアルミサッシを並べ、天井にはシーリングライトを配して部屋全体を一様に照らしがちです。しかし、本当に豊かな空間とは、光の「強さ」ではなく、光と影の「対比」によって生まれるのではないか。

そこで、実家のリノベーション設計においては、南側の開口部をむやみに広げるのではない、北側の天井付近に「ハイサイドライト(高所窓)」を新たに設け、住まいの奥深くまで均一な安定した光を導く計画を立てました。既存の天井を取り払い、屋根の勾配をそのまま活かした4m以上の天井高を確保。柱のノイズを最小限に抑えるため、構造計算を入念に行い、不要な間仕切り壁と柱を抜き、梁を鉄骨で補強する図面を描き上げました。東京と香川の二拠点を行き来する中で培った、「都市の合理性」と「地方の豊かな自然」を融合させるアプローチです。

(日本全国、また香川での豊かな暮らしを形にしたいとお考えの方は、私たちの

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