永遠を切り取る。建築写真の構図とライティングが教える「真に豊かな空間」の条件


建築の魂は、一枚の写真の中に宿るのか

私たちは建築を設計する際、常に「そこにある光」を想像します。図面上の線が立ち上がり、コンクリートや木材という物質に置き換わったとき、そこにどのような影が落ちるのか。建築家が意図した空間の豊かさは、完成後に撮影される建築写真によって、改めて「再定義」されることが少なくありません。

「写真は真実を写すものではない」という言葉がありますが、建築写真においては、むしろ「肉眼では見落としてしまう本質」を浮き彫りにする装置であると私は考えています。今回は、これから住まいや空間を創造しようとしている皆さまへ、建築写真の「構図」と「ライティング」という視点から、美しい空間を構成する要素を紐解いていきたいと思います。

私たちのこれまでの軌跡は、ポートフォリオにて詳しくご覧いただけます。そこには、光と影の対話が記録されています。


1. 構図:空間の「秩序」と「リズム」を司るもの

建築写真における構図は、単なるフレーミングではありません。それは建築家がその空間に込めた「秩序」を可視化する作業です。

垂直と水平の緊張感

建築を撮る際、最も基本となるのは「垂直」を守ることです。建物の柱や壁のラインが真っ直ぐに立ち上がっていること。当たり前のことのように思えますが、この垂直性が保たれているだけで、空間には計り知れない「安定感」と「知性」が宿ります。広角レンズによる歪みをあえて抑え、端正な構図を保つことで、住まう人が無意識に感じる「安心感」を表現することができるのです。

視線の抜けとシークエンス

次に重要なのが、視線の「抜け」です。河添建築事務所が手がける住宅設計では、玄関からリビング、それから中庭へと続く視線の流れ、いわゆる空間のシークエンスを大切にしています。写真は、その一瞬を切り取りますが、優れた構図には「その先」を感じさせる奥行きがあります。一つの部屋で完結せず、次の空間へと誘うレイヤー構造を意識することで、住まいに物語性が生まれるのです。

2. ライティング:影をデザインし、テクスチャを彫り出す

「光があるから影があるのではない、影があるからこそ光が際立つのだ」――。谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』を引くまでもなく、日本の美意識において「影」の役割は絶大です。建築写真においても、最もドラマチックな瞬間は、太陽が低い位置にある早朝や夕景に訪れます。

サイドライトが語る素材の表情

正面から均一に当たる光(フラットな光)は、空間を説明的にはしてくれますが、情緒には欠けます。一方で、横から差し込むサイドライトは、壁の漆喰の細かな凹凸や、無垢材の木目の深さを彫刻のように浮かび上がらせます。私たちは設計の段階から、この「斜めから入る光」がどの壁に、いつ、どのように落ちるかを計算します。光によってマテリアル(素材)が呼吸を始める瞬間、空間は初めて生命を宿すのです。

人工照明による「静寂」の演出

夜の建築写真もまた、空間の別の一面を見せてくれます。重要なのは、全体を明るく照らすことではなく、「光の溜まり」を作ること。天井に埋め込まれたダウンライトで一律に照らすのではなく、フロアランプや間接照明によって、闇の中に浮かび上がる光の島を作る。このコントラストが、高級感と落ち着きを演出します。私たちのPerspective(視点)でも触れていますが、旅先で出会う美しい建築も、夜のライティングがその建物の品格を決定づけていることが多いのです。

3. 物質性とディテール:神は細部に宿る

建築写真は、広角での全体像だけでなく、ディテールのクローズアップによってその深みを増します。たとえば、階段の手すりの接合部、サッシのフレームの薄さ、石材の目地の通し方。こうした細部(ディテール)へのこだわりが、建物全体のクオリティを支えています。

写真家は、こうした細部を執拗に追いかけます。それは、その細部こそが建築家の「執念」であり、クライアントへの「誠実さ」の現れであることを知っているからです。ノイズを削ぎ落とし、純粋な形と色だけを抽出する。そのミニマリズムの極致こそが、私たちが目指す建築の姿でもあります。

4. 建築を「撮る」ように「住まう」

美しい写真を見て、「こんな家に住みたい」と思う。その感覚を大切にしてください。しかし、重要なのは写真映え(インスタ映え)すること自体ではなく、写真に切り取られるほどの「美学」がその空間に貫かれているかどうかです。

良い建築写真は、時間の流れを止めます。しかし、実際の建築は、家族の成長や季節の移ろいとともに変化し続ける動的な存在です。私たちは、写真として切り取られた一瞬の美しさだけでなく、10年後、20年後にその場所で刻まれる「生活の構図」までもを設計したいと考えています。

もし、あなたがこれから自身の美学を形にするための場所を求めているのであれば、ぜひ一度私たちの東京オフィスを訪ねてみてください。写真では伝えきれない、空間の空気感や素材の温度を直接感じていただけるはずです。

結びに代えて

建築写真から紐解く構図とライティングの世界、いかがでしたでしょうか。美しい空間とは、決して高価な素材を並べることではありません。そこにある光を理解し、秩序ある線を整理し、心地よい影を許容すること。それだけで、日常の風景はまるで映画のワンシーンのように輝き始めます。

建築家としての私の仕事は、皆さまの人生における「最高の構図」を見つけるお手伝いをすることに他なりません。新しい住まいというキャンバスに、どのような光を描き、どのような影を残すか。その対話を始められる日を、心より楽しみにしております。

河添建築事務所
代表 / 建築家 河添 甚

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