刻まれる時を愛でる:コンクリートと木材が織りなす「静謐な対話」の設計論

建築とは、完成した瞬間がピークであってはならない。私は常にそう考えています。風雨にさらされ、光を浴び、人がその中を歩き、触れる。その積み重ねが、建築に唯一無二の「深み」を与えていく。KAWAZOE-ARCHITECTS(河添建築事務所)が提案するのは、単なる「劣化」ではなく、美しく歳を重ねる「経年美化」を前提とした空間です。

今回は、私たちの設計において核となる二つの素材、「コンクリート」と「木材」に焦点を当て、その対話がどのように住まいに魂を吹き込むのかを紐解いていきたいと思います。

1. 緊張感と温もりが同居する空間の定義

建築における素材選びは、オーケストラの楽器選びに似ています。力強く、重厚な低音を奏でるコンクリート。そして、繊細で温かみのあるメロディを紡ぐ木材。この二つが空間の中で出会うとき、そこには心地よい緊張感と、包み込まれるような安心感が同時に生まれます。

打ち放しコンクリートの壁面は、その硬質な質感ゆえに、一見すると冷徹な印象を与えがちです。しかし、そこに太陽の光が差し込んだとき、表面の微細な凹凸が美しい陰影を描き出します。私たちは、この「影の美学」を大切にしています。一方、木材はコンクリートが持つ冷たさを和らげ、空間に「人間味」を添えてくれます。足裏に伝わる木の柔らかさ、あるいは空間に漂う微かな木の香りは、住まう人の五感を優しく刺激します。

私たちのポートフォリオを見ていただければ、この異素材の対比が、いかに空間の質を高めているかを感じていただけるはずです。

2. コンクリートの「成熟」:風化を美しさに変える

コンクリートは、決して「無機質で変わらないもの」ではありません。年月を経るごとに、その表情は驚くほど豊かに変化します。空気中の成分と反応し、あるいは周囲の植栽の影を記憶するように、少しずつその色合いや質感を変えていくのです。

設計段階から10年後、20年後の姿を想像すること。それがプロフェッショナルとしての矜持です。例えば、雨垂れの跡さえも、意図的なディテールと調和すれば、それは建築の「歴史」という名の装飾になります。私たちは、表面の平滑さだけを追求するのではなく、コンクリートが持つ本来の逞しさ、加えて歳月とともに増していく「重厚な風格」をデザインしています。

3. 木材の「深化」:色を深め、記憶を刻む

木材ほど、時間の経過を如実に語る素材はありません。新築時の明るい白木の色は、数年も経てば落ち着いた飴色へと変化し、さらにその先には深いブラウンへと熟成していきます。これは、木が生きている証であり、住まい手と共に成長している証でもあります。

住宅設計において、私たちが木材を多用するのは、その変化が住む人の記憶と密接に結びついているからです。子供が柱につけた傷、家族が毎日触れる手すりの艶。それらはすべて、かけがえのない家族の物語の一部となります。私たちは、あえて「節」のある材を選んだり、無垢材の呼吸を妨げない自然塗料を使用したりすることで、木が持つ本来の生命力を引き出すことに注力しています。

4. 素材間の「対話」を演出するディテール

コンクリートと木材。この二つの素材をただ隣り合わせに配置するだけでは、真の対話は生まれません。重要なのは、その「接点」のデザインです。

例えば、コンクリートの壁と木の天井が接する部分に、わずかな「目地(隙間)」を設ける。これにより、それぞれの素材が独立した存在として際立ちながら、互いの質感を強調し合います。あるいは、コンクリートの無機質な床に、温かみのある一枚板のテーブルを置く。そのコントラストが、日常の何気ないシーンをドラマチックな舞台へと変貌させます。

建築家としての私の視点や、旅先で出会った素材のインスピレーションについては、こちらのパースペクティブ(視点)でも詳しく綴っていますので、ぜひ併せてご覧ください。

5. 「失敗しない家づくり」と素材の選択

高価な素材を使えば良い建築ができるわけではありません。大切なのは、その素材が「その土地の気候に合っているか」「住む人のライフスタイルに馴染むか」という視点です。メンテナンスを恐れて、経年変化しないフェイクの素材(木目調のプラスチックなど)を選ぶことは簡単です。しかし、それでは時間の経過とともに「劣化」するだけの家になってしまいます。

本物の素材は、適切に手入れをすれば、一生、あるいは世代を超えて愛し続けることができます。私たちは、後悔しないための家づくりのアドバイスとして、常に「本物」に触れることの価値をお伝えしています。コンクリートのクラック(ひび割れ)や木の反りさえも、自然の摂理として受け入れ、楽しむ。そんな心のゆとりが、豊かな暮らしを生むのだと信じています。

結びに:建築は、時と共に完成へと近づく

河添建築事務所が目指すのは、引き渡しの日が「完成」ではなく、そこから住まい手の手によって育てられ、時を経て完成へと近づいていく建築です。コンクリートの静寂と、木材の温もり。この対話が止まることなく続く家は、住む人にとっての聖域となり、心を穏やかに整える場所となるでしょう。

素材が持つ無限の可能性を信じ、私たちはこれからも、美しい時間を刻むための舞台を創造し続けます。あなたの理想の住まいについて、ぜひ私たちに聞かせてください。共に、物語を紡ぎ始めましょう。

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